
日記、日記かあー。
そう言われても、俺の人生は別に記すべきモンでもない。
ただ産まれ落ちて、偶然見つけた道を歩んできて、気付いたら底無しのまっくらやみに落っこちてた男。
俺は雁野家の一人っ子の、壱。イチじゃなくてハジメな。試験に出るよ。
でも、そういえばそうだな。
そんなまっくらやみの中で俺を照らしていたのはあのジジイだったか。
あいつは便所の壁あたりに記されるべき男だと思うので、今回はヤツとの思い出話でもしておこう。
出会ったのは中学時代だったか、俺は寝坊したから商店街の裏道通ってショートカットしようとしてたんだ。
そしたら怖い顔したヤクザにぶつかったじゃん。当然の権利のようにボコられンじゃん。
あん時はヒョロヒョロモヤシのいじめられッコだったからなーんも抵抗もできなくて。
ガチめに泣きじゃくってたら、突然現れたカーキ色のエプロンしたおっさんがヤクザぶっとばしたの。
ビビッたよね。
その後に喫茶店に連れ込まれて消毒液ぶっかけられて俺は更に泣いた。
あいつほんとクソジジイだわ。あいつは人の痛みを知らねえ悪魔だ。
その後なんやかんやあってぶつかったヤクザ達に親殺されたから、ジジイの喫茶店に住むことになって。
住むっていうか体のいい奴隷扱いだな、あんなん。喫茶店のホール任されたのは勿論、家事全般やらされたし。
料理下手だったからマズい飯作ったときはてめーだけで処理しとけって全部食わされたし腹はち切れるかと思った。
腹立ったから必死こいて料理の腕あげて自信作出しても"俺以下だ"の一言で切り捨てた。……癖に喫茶店のメニューに追加しやがってたな。
やっぱクソジジイだわ。オールウェイズクソ。
……あーそうだ、そこらへんで今のオヤジにも会ったんだっけなあ。
で高校卒業前あたりに抗争に巻き込まれたクソジジイも死んで。
気付いたら流れで安曇組の世話ンなることになってたよね。そっから闇の世界に全身ドボンよ。やだねえ。
ウチの喫茶店に来る奴等にはこんな人生歩んでほしくねーわ。がんばれよみんな。
あれ、そういやジジイの名前覚えてねえな、なんだったっけ……。