
「……OK?」
シロナミと名乗った男がそう問いかけたところで、短い時間意識が飛んでいたことに気がついた。
「……すみません、眠っていました」
「……大丈夫なんですかねぇ」
「お話を聞いているだけでしたので、つい……でも大丈夫です内容は理解しました」
呆れたように確認する彼に微笑を返して、七折キズナは一つ息をついた。
大丈夫といったのは嘘ではなかった。話はだいたい理解できたし、聞き落としがあったとしても、そこまで重要なことではないはずだ。
それにしても――。
「こういうわけですか」
「……なんです?」
「あぁいえ、実は最近占いで妙な結果が出ていたもので」
「占い?」
「はい。とはいっても、あまり頼りになるものではありませんが」
そういって、ふふ。と小さく笑う。
「なんにしても、この勝負……戦争といったほうが正確でしょうか、絶対に負けられませんね」
時を刻む魔力時計、書き味のいいインク、同じような日々
大きく意識しないようにしてカードを選択する。占いに意思が介入すると結果にブレがでる
引いたカードは……
「それじゃあ留守の間よろしくお願いするね」
そう告げて、何でも屋『星の光』の店主は長期休暇に出かけていった。
オオキタ区に店を構える『星の光』は店員がそれぞれの専門分野を生かして、商いなどを行う店だった、今回店主が休暇ということで、店もほぼ休業状態になり、キズナが担当している護符販売や占いなどが残るのみだった。
「とはいえ、それでも尋ねてくれる方は居ますし、しっかりと留守を守らなくちゃ」
力を込めてそうつぶやく、言葉に出すのは彼女の癖でもあり、眠ってしまわないための工夫でもあった。
……今朝の占いも『混沌』だった。
『混沌』は彼女の扱う占いの結果で、まぁだいたい何もわからないということだった。
今が良い状態なのか悪い状態なのか、先にいい事があるのか悪いことがあるのか、全部不明。
過去・現在・未来を示唆するカードを使って行う占いなのだが、ここ二週間ほどはずっと『混沌』ばかりだった。
おかげさまで常連客には「ついに壊れたか、まぁあんまり頼りにならないけど」と手厳しいお言葉をいただいていた。
反論はできないけど、原因がわからないのはなんとなく気分が悪い。
「身体とかに原因があるというのが一番ありえそうなんですけどね」
そういって胸に手を当てる。そう考えるだけの心当たりが多すぎる。
――からんからん。
ドアベルが来客を告げる、いらっしゃいませという声は先に話し出した相手にかき消された。
「やぁ、キズナさん。店主さんがお出かけだって? 寂しくないかと思って遊びにきてあげたよ!」
「……それはどうも。寂しくはないですよ。……紅茶でいいですか?」
「……この街は私も気に入っています、だから絶対に……留守は守りますよ」