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「…そもそも、集団行動が向いてはいなかったな」 |
誰に聞かせるでもなく淡々と呟く
それはふらっといなくなったアルケロイドのことであり
そこには単独行動を取りがちな自らのことも含み
日々、集団の中でストレスを溜めているサイトロクスのことも指していた。
そもそも別々の種族がひとつの大いなる存在に仕えているだけの寄せ集め。
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「大方、なにか興味の惹かれるものを見つけて、それを追いかけていったのだろう。 そういった可能性を考慮していなかった俺のミスではあるが ……いや、俺の仕事なのか、それは」 |
それを一時的にとはいえ預かることとなったことにまだ慣れてもいない。
道標を失った徒党を牽引するだけの力も示さなければならない。
大いなる存在は今はいずこかへとその身を隠している。
やれやれと溜息をつき、空を仰ぐ
ハザマの空に在る星は、別の空の星が落とした影なのか
切り取られた側面のひとつなのか
遠くに在りて近くに在り、しかして
こちらからは手も届かぬ、声も届かぬ
不可視の孤星より届く、一方通行のか細い光。
欠けた星は墜ち、彼方の緋き否定へと繋がれた。
響奏の空に在るべきはずの星の光は瞬かず
緋色のフィルタ越しに届く曖昧な道標
孤星が落とす歪な影だけが彼らに囁き続けている。
ハザマで得られた、“あの御方”の現状の推測。
それは彼らにとって喜びではあったが
それは持ち帰ることの叶わない成果だった。
けれど、ハザマでの彼らの立ち位置と目標は明確になった。
アンジニティの勝利を以て、イバラシティと引き換えに
“あの御方”を帰還させる。
そこに己らが供に立つことが叶わなくなることがわかっていても。
途絶した記憶。
イバラシティとハザマの記憶は繋がってはいない。
ハザマのみに隔離された記憶。
別たれたその後、否定された地でその過程の記憶を有することなく
何もわからないまま闇雲に主を探し求め続ける可能性もある。
それも考慮した上での納得と覚悟の上での選択。
あるいは
己が身のことなどは二の次であり
それ以外に己の価値を見出せない、持ち得ない、考えもしない
それを失っては生きてはいけない
他に縋るものも無い
代替になるようなものもなく、それに不満や不安を抱くこともなく
迷いもなく、己が身を差し出し、その存在に殉ずる。
盲信。狂信。
忠実なる下僕。
彼らは、そういった生き物なのだ。
故に
あの御方の夢の礎となるのは本望なのだ。
堕とされたあの御方を在るべき御座へと戻す。
己らの先行きのことなどよりも
その為の道が見出せたことの方が余程重要だった。
たとえあの御方が描く夢の成就をその膝元で見届ることが叶わずとも
その為の犠牲が如何ほどの数となろうとも
彼らが省みることはないだろう。
夜の光に向かって羽ばたき続け、力尽きて墜ちて砕ける哀れな蛾のように。