両親が事故で死んでから、瑞稀を守るため、育てるために、必死で働いてきた。
この生活が続いて何年になるだろうか。
まだ五年も経っていないかも知れない。
しかし、それ以上にとても長く感じる。
長時間労働の低賃金。
所謂ブラック企業に勤めて、そこから抜け出せなくなってしまったのは、
働かなければ生きていけない、転職しようにもそのような体力などない、
そういった呪いに囚われているからだ。
たまの休日は、体力があれば瑞稀の後をつけて回り、
体力のない日は自室にこもってエロ動画を眺めるだけ。
完全に虚無。
なんのために生きているのか。もちろん、瑞稀のため。
しかし仕事に行き、帰って寝るだけの生活を繰り返すうち、
徐々に瑞稀との接触も減って━━
考えたくはない、だが確実に、瑞稀と接する体力すらなくなってしまっている。
━━瑞稀に対して無関心に、時には鬱陶しくすら、感じてしまう。
気まぐれに突き放し、気まぐれに愛す。
そんな最低なことを、してしまっている。
いつからだろうか。
心にこれほどまでに、余裕がなくなったのは。
いや、精神的な問題ばかりではない、これは体力的にも比例した話なのだろう。
近ごろ体力が急激に落ち、心身ともに疲弊しきっているのが、自分でもわかる。
年齢的におかしい、異常なまでの体力の衰え。
もともと患っている病気が関係しているのかも知れない。
病院に行くべきであると、わかってはいるものの、そんな金すら惜しい貧困状況。
それ以前に病院に行く時間も体力もない。
このままどこまでいけるだろうか。
このままいつまで続くだろうか。
瑞稀が働くようになったら生活が楽になるだろうし、そうしたら二人一緒に、
幸せに生きるのだと、夢を見ていたけれど。
夢で終わったら、悲しいなぁ。
━━そう、案の定、夢で終わるだろう。
我々はニンゲンより遥かに短命である生き物。
身体が悲鳴を上げるのは激務による疲労ばかりが理由ではない、単純に、寿命が近いからだ。
もう終わりはすぐそこまで迫っている。
どちらにせよ、救いなどない。
瑞稀と共にニンゲンとして生きても、瑞稀を失いマモノとして生きても。
叶わない夢を見てニンゲンの社会に殺されるか、愛したものを失い野垂れ死ぬか。
ならば選択はおのれ本位に考えてもさして意味をなさない。
そういった言い訳をして、瑞稀のためなどと、綺麗な言葉を吐いて、おれは瑞稀を守るため侵略者をぶっ潰そう。
━━哀れ。あまりにも滑稽。
一瞬、一瞬ずつ、吐き気と共に、幸せだった記憶が目の奥を焦がす。