およそ5mほどの巨大な――、されどすっかり荒涼とした枯れた印象を抱く土塊。
それがハザマの地をゆっくりと、地響きとともに這いずる。
その枯れた土塊にただひとつ、頭上に一輪の花だけが在る。
そよぐ風とともに、花が優しく揺れる。
花がゆらり揺れて、人のかたちを取ると、葉のような手で土塊をゆっくりと撫ぜる。
《ついに此処まで来れたわね。もう少しよ。》
花が土塊に優しく語りかける。
《やっと、広く豊かな地に根差せる機会が訪れたわね。
ここで土地を貰えれば、貴方も私も、また元の日々に戻れるのよ。》
《ここまで、ずっと二人きりだったけれど。
あと少しよ。
『頑張りましょう。』……ね。》
その言葉とともに、土塊の身体が心なしか活力を得たように色を得る。
単純な好意に応じて少々の力を得る、土塊の異能。
甘やかな言葉に、土塊が短く応える。
「……うん。おで、がんば、る……。」
(《……無いよりはマシな程度だけれども。
単純で扱いやすいのは、悪くないのよね。これ。》)
花の思惑は土塊には届かない。
地の揺れる音と僅かな風だけが響いていた――
――――……
「う……、」
"案内人" が言っていた、仮初の記憶――
(賑やかな高校生活)
≪部屋で家族の帰りを出迎える日々≫
(話した人々、皆を好ましく思う感情が、)
≪窓辺から聞こえる喧騒など興味はなかった≫
(触れた土の温もり、咲き続ける花々、広く見渡せる丘が)
≪風が運んで来る花の香りが≫
(あの場所が欲しい)
≪あの場所を奪いたい≫
――……
(ずっと居てくれたあの花とともに)
≪繁栄に都合良い土台とともに≫
土塊と花は歩を進める――
土塊
5mほどの巨大な土塊。
特別な名も知能も無い。
イバラシティの肥沃な土地を求めている。
イバラシティでは "砂藤 崇成" と名乗るもの。
花
アンジニティにて土塊に目を付け行動する花――
が人のかたちを取った魔物。
自種の繁栄を望み、土塊は利用対象でしかない。
花名はオオハンゴウソウと呼ばれるもの。