平須らしい耀華帝国風の料理を口に運ぶ。
　エビを香辛料で炒めたこの料理は後味がピリリと効いていて、なかなか癖になりそうだ。

「……兄様、良かったんですか？　僕と食事だなんて」

　ちまちまとエビを突いているアルノーが、遠慮がちにそう尋ねる。

「何か悪いことがあるのか？」
「いえ、そうではないのですが。いつもお忙しそうにしていたので」
「今日の仕事は終わったからな。まだ赴任したてだから、実はリバーシに居た頃より忙しくないよ」
「なるほど。でしたら、良いのですが」

　アルノーは俺のことが苦手だ。ついでに上の弟――コルネイユのことも。
　一度、コルネイユに言われたことがある。「兄貴は完璧人間だから取っつき難いんだよ」と。
　それならお前はどうなんだと訊くと、「俺は完璧人間のかの字もないけど、この家には適応してる。アルノーはできてない。だから俺らに対してコンプレックスがあるんじゃないの」と言った。
　今のアルノーは家を出て、自分の力でちゃんとやっている。家に対するコンプレックスなど持つ必要がない。だから少しくらいは和やかに話せるかと思っていたが、まだ早かったのかもしれない。
　適当なところで切り上げるのが良さそうだ。そう判断したところで、ふとアルノーと目が合う。
　何か言いたそうだ。

「どうした？　……辛いのは苦手だったか？」
「ああいえ、おいしいです、とても。そうではなくて……兄様とこうやって二人で食事をするの、初めてでしょう。何だか新鮮で。
　何を話して良いやら、少し緊張しています」

　アルノーはそう言ってはにかんだ。
　額面通りに受け取るのであれば、この食事自体を厭うているわけではないらしい。そして、アルノーは嘘を吐くのが苦手だ。

「それなら、アルノーの旅の話を聞かせてくれないか？」
「旅？　……と言うと、僕が家出をしていた時の話ですか」
「ああ。一度ゆっくり聞いてみたかったんだ」
「あれは若気の至りのようなもので、何と言うか、兄様に聞かせるには少しお恥ずかしいのですが……まあ、聞いていただけるのであれば」

　躊躇っていたのは最初だけで、アルノーはつい最近のことのように鮮明に、生き生きとその旅の話をし始めた。