応礁へと帰る前に、府評に少し留まることになった。
　これは予め予定していたことだ。遥々ここまで来たのに、国籍を取るだけでは甲斐がない。
　理由は現場視察が半分、興味が半分。
　前者は先輩に案内をしてもらいつつ、後者は一人で街を散策した。
　その時。

「……にっ」

　どさどさと荷物が落ちる音が聞こえて、振り返る。

「兄様、ですか……？」

　騎士服がよく似合う、すらりとした長身。金の髪。碧い瞳。
　末の弟、アルノー・カルパンティエ。
　思わぬ遭遇に、さすがに目を丸くする。

「アルノー？　久しぶりじゃないか。どうしてこんなところに」
「それはこちらが聞きたいのですが……ああ、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。
　ええと、僕は平須海軍との交流会のために参りました。付き添いのようなものですが」
「そうか。騎士団の一員としてしっかりやっているんだなあ」
「まだまだ未熟ですが……何とかやっています」

　そう謙遜してから、はっとしてアルノーが荷物を拾い始めたからそれに倣う。「いいですよ」と遠慮されたが、遠慮するようなことでもあるまい。

「俺は平須支部に配属になってね。今日は国籍を取りに来た……と言っても、もう終わったんだがな」
「なるほど、今はリバーシから離れているんですね。
　シーニュ兄様とこんなところでお会いするとは思いませんでした」
「それは俺の台詞だよ」

　荷物を渡すとアルノーは、「すみません、ありがとうございます」と言って頭を下げた。
　その顔を上げると、面貌は凛々しい。さっきも言った通り、騎士として頑張ってるのだろう。
　そう思うと同時に、不思議さを覚える。弟はいつまで経っても弟で、小さい頃のイメージが強いのだ。

「アルノー、この後は空いてるのか？」
「はい？　……そうですね。この荷物を宿に運んだら、今日のところは」
「そうか。じゃあ、食事でもどうだ」

　アルノーは大袈裟なくらい目を見開いた。
　それから、頷いた。