魔王様と、人間との戦いは終わった。

今、魔界は戦後処理に追われている。
犠牲者の追悼が終わると、新しい魔王を軸とした政権の立て直しが行われた。
近々、議会の選挙も行われることだろう。

人間側の政府は、双方の被害状況や、魔王の早期での降伏といった状況を鑑みて、魔界側の責任はほぼ不問とした。
トスナ大陸との間に講和条約が締結され、魔界もまた、平和を取り戻そうとしている。

＊

わたしは、人と魔族が共存する、名もなき小さな村を訪れた。
イーケプラの生まれ故郷だと聞いていた。

「女騎士イーケプラは、この村の誇りであったが……儂にとっては、可愛い娘のようなものじゃった」

村の長老は、静かにそう語る。

「まだお前さんくらいの頃、あいつと儂は言い争った。
儂はイーケプラには、お嫁に行ってほしかったんじゃ。あいつの、綺麗な花嫁姿を見たかった。
でも、イーケプラは、魔王城で、魔王様に仕える騎士になりたいと言ってきた。
儂は反対したが、あいつは、村を出ていったんじゃ」

小さな村ではありがちな話だった。
なれど、もう二度と、イーケプラと長老が再会することはないのだ。
仲直りができないまま、イーケプラは騎士としての生を全うしたのである。

「お前さん、頼みがある」

わたしは長老と共に、イーケプラの墓を訪れた。
白と紫の花、そして、彼女が騎士だった頃に使っていた、鎧と槍を供えた。

高齢により歩けなくなった長老の代わりに、わたしは深く、頭を下げた。

村はひどい有様だった。
人と魔族が共存する村。今回の政府の決定に対し、あまり良く思わない人間も少なくなかった。
この村では、人間と魔族による、小さな争いが絶えなかった。長老もそう嘆いていたが、年老いた彼ではどうすることもできなかった。

木に引っかかった一つのボール。木の枝はボールを貫き、もはや遊びの道具として使うことはままならない。
泣いている子供をよそに、言い争いをしているのはその母親同士だった。
魔族なのだからボールを弁償しろという人間の母親。人間に嵌められたと謂う魔族の母親。

わたしは新しいボールを子供に買って与えた。
そして、その母親には、同じボールで一緒に遊んでいたのだから、魔族だけを責めるのはおかしいと説いた。
だって、新しいボールで遊ぶふたりの子供は、ふたりとも楽しそうにしていた。
そこに人間も魔族もなかった。

「あの……ありがとうございます！貴女は……」



「わたしはハルシオン。親善大使だよ」