薔薇に囲まれたテラス。白い装飾があしらわれたテーブルと椅子。
食器に彩られた、ケーキやクッキーの数々。
そして、ほんのちょっとだけ、大人の味に淹れられた紅茶には、たっぷりのミルクとお砂糖が合うの。

それでね、わたしたちは、政治についてたくさんお話をしたのよ。
家臣を信頼すべきか否か。他種族を信頼すべきか否か。人間に攻め入られた魔界の立て直し方。
わたしは人間と、お友達になりたいって、魔王様にお話をしたのよ。

それ以外にも、たくさんのお話をしたの。魔界で流行っていたアイドルの話とか……後は、そう。
おしゃれとお化粧のじょうずな、侍女たちのお話とか。

「魔王様、ハルシオン様。今日も楽しそうですね。今日はお茶会ですか？」

「ううん。おちゃかいじゃないもん！てーおーがく、だもん。ね、まおうさま！」

ちっちゃい頃から、わたしは帝王学を勉強していたの。
そんな、お茶会の、他愛のない会話から。
魔王様に学ぶことも多かったし、魔王様だってきっと、わたしから学ぶことも多かった。


＊


「イーケプラ……」

「強く、なりましたね……ハルシオン……」

わたしの目の前に倒れていたのは、剣に貫かれたイーケプラの姿だった。
わたし……カヴちゃんとゼイギンさんを、守りきれたんだね。

でも、わたしの思い出は、ぼろぼろと崩れ去っていくの。
昔の仲間も友達も、たくさん、わたしたちとの戦いで、いなくなってしまった。
この戦いで討ち死にした魔族もいるし、戦争に巻き込まれた魔族もいた。

でも、ここで魔王様を倒して、わたしが新しい魔王になったのなら、人間界も魔界も、平和になって。
もう、戦争で死ぬ人は、いなくなるの。種族なんて関係なく。

「ハルシオン……もう、魔王様は……
私からの、最期の言葉です」

テラスの方を見れば、あの日に魔王様と見た薔薇の花は、もう散っていた。
枯れた茨に、埃をかぶって黒くなったテーブルと椅子が、虚しく置いてあるだけで。

もう、あのお茶会の日々には、戻れないんだなって、そう、思ったの。


わたしは思わず、玉座の間に駆け出していた。
ねえ、魔王様。わたしが、きめたことは――