色とりどりの世界は、誰かが生きて経験してきた場所の全てだ。
　ただ、僕はそれらを全てを失った。
　だけど君はそこに居た。そこに居て呼吸をしていた。
　この色たちの下で。


　周囲が見えるのは、俺の魔力が情報を伝えてくれているからだと研究者は言っていた。視覚という感覚器の代わりに、新たな感覚器として動いているとも言っていた。
　だけどどうにも見えないものもあって。まぁ困ることも無いけれども。

　宿の風呂から上がると、姿見鏡があった。
　鏡というものがあるというのは分かるが、そこに写っているものはハッキリと読み取れない。

　もう何年、自分の顔を見てないんだろう。


　そういえば魔王軍の魔族がいるという噂を聞いたとき、ハルシオンが妙に反応していたな。
　俺はただの噂だしなぁって聞き流してたし、カヴネルは西に行くぞ！と気合いを入れてた。