二人はオレをあの家の当主にしたいらしい。
　……自由気ままに旅をしている方が気楽なんだけどな。
「お兄様、お兄様を当主にするというお話ですが……」
　宿屋の自室で休みながら考えていると、ノックの後に妹の声がした。
「ああ、入ってくれ」
　そうだよな、この話はちゃんとしておかないといけない。
「俺も失礼します。レオリ様」
「ん、ヴェイも一緒か」
「アーシも入るねー」
「いや、何でだよ」
　二人はわかるがコイツまで入ってくる理由はわからない。
「……」
　……二人のミョルを見る目が怖いように思えるのは気のせいだろうか？
「ひとまずこの方は無視しておきますけど……お兄様、もしもあの家を継ぐことが嫌でしたら、ワタクシたちはそれで構いませんわ」
「え……？」
「あの家について嫌な思い出があるのはレオリ様も同様でしょうし……こうなる可能性も予見しておりました」
「ん……ってことはあの家はどうするんだ？　あ、もしかして、ダウラが」
「それはありえませんわ」
　即答だった。
「まあたしかに、当主という立場になるとはいえ、あの家に留まるのは嫌だろうな……無責任なことを言ってしまったな。すまん」
「いえ、仮にお兄様が戻って来られるのでしたらワタクシはあの家で生涯を終えるでしょう」
「……俺にそこまでの価値はないさ」
　この二人は何かにつけて俺を崇め奉ろうとしてくる。
　……ああ、あの家にいたとき、それが少々疎ましくもあったのを思い出した。
「とんでもありません。レオリ様の存在は俺とダウラ様にとっての光なのです」
　……何となく話が読めてきたぞ。
「……お前ら、俺の旅についてくるつもりだな？」
「流石お兄様。話が早いですわねっ！」
　勘弁してくれ……
「それはちょっと勘弁してくれないかなぁ？」
　うっかり口を滑らせたわけではない。
　この言葉は俺ではなく、ミョルから発せられたものだった……