幸いにして村との争いは起こらず、獣が告げ口をしたことは疑われることさえなかった。
　少しだけ休んで、さっさと後にする。このまま最後まで何も起こらず、平和に過ごしていてほしいと願いながら。

　そもそもこの世界では人間と魔族の間に協定が結ばれているらしいのに、なぜ魔王は攻撃を開始したのだろう。
　村人たちに聞いてもみたが、わからないという。

　人間と魔族がどこまでも戦争し続け……人間がいなくなった後までも魔族同士で争い、ついには世界中めちゃくちゃにぶち壊してしまうに至ったところの出身としては、理解し難い話だった。

　ただ、トスナ大陸からやってきたパーティーの中に、すでに魔王城まで攻め上っている者たちがいるらしいと聞いた。本当ならそいつらが問い詰めてくれるかもしれない。
　魔王が降伏するか……あるいは斃されてしまったとして、この魔界はどうなるのだろうか。

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　さっさと出ていってしまったとはいえ、村の居心地は決して悪いものではなかった。
　然るべき対価を支払えば、飯も宿も提供はしてくれる。本当に嫌われていたらぼったくられるか門前払いを食らうものだ。

　もうじき戦わなくて良くなったら、ここで暮らしていくというのも十分ありだろう。

　主を持たず、夢も追わずに生きていくことが、果たして自分にできるかどうかはわからないが。

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　行く手には森が広がっている。
　あのプラインカルド城から出てきた先も森だった。魔界というのは森でできているのだろうか、と思いたくもなる。獣としては、どちらかというと草原や岩場が好みなのだが。

　魔王の城はどこに見えるのだろうか。