「じゃあな、泡盛ー。弓、ありがとうなー！」
　従者と妹に聞きたいことは山ほどあるのだが、無関係の彼を巻き込むわけにはいかなかった。

「……それで、親父を殺したからオレに家督を積んでほしいっていう話だっけか？　とりあえず、どうしてそうなったかっていうことだけ聞こうか」
「あの男を殺した理由としては、俺とダウラ様の恨みが全てです」
「たしかに、お前らに恨まれるのは当然だが……」
　一人は大変な目に遭った実験体。もう一人は陵辱の果てに生まれた半身半魔。
　報復するなと言う方が無理があるだろう。
「殺すまではない。心優しいお兄様はそう言うと仰ると思っておりましたとも」
　歳不相応な凛とした声色で妹は言う。
　見ない内に大人びた雰囲気が増しているように思える。
「生まれはどうあれあの家での暮らしは恵まれたモノでしたからね。恨みながらも極力それを表に出さないようにしておりましたし、それがずっと続くのだろうと思っておりました」
「それが、いったいどうして踏み切ってしまったんだ？」
「お兄様があの家を去ってしまったからですわ」
　ダウラの言葉に乗じるようにヴェイも頷く。
　オレが、出て行ったから……？
「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ〜」
　間の抜けたミョルの寝言に雰囲気をぶち壊されるが、気にしない。
　疲れたからといってすぐ眠れるコイツが多少羨ましくもあるが……
「あの家での暮らしが恵まれたものだと感じることができたのはレオリ様のおかげなのです」
「は、はぁ……」
「ですから、お兄様が家を出た半年前、あの男の殺害をヴェイと企てましたの」
「は……？」
「そうすれば、レオリ様はまたあの家に戻られるでしょうから」
「ええ。お兄様が家を捨てる形で出て行ったのはあの男の蛮行に心を痛めた故の勇敢な抗議なのですから。ワタクシ達も行動に移すべきだと」
　ちょっと待ってくれ。
　オレの家出が美化されてる。
　オレはただ自由になりたくて家を出ただけなんだって。
　なんかタイミング的に丁度良かったから半年前に家を出ただけで……！
　むしろ客観的に見ると家出の理由にお前らの境遇を利用してしまったというか……
「ん、なるほどな……とりあえず親父殺しの事情はわかったよ」
　言えるわけがなかった。それっぽく取り繕うことしかできなかった。
　……どうしよう。