たぬきだ。
　森からたぬきが尾けてくる。

　あの森のたぬきであることは明白――何たってカレンデュラには見覚えがある――だが、なぜ尾けてくるのか全く分からない。
　何かした覚えも、特にない。カレンデュラが忘れてるだけかもしれないが、しかし何かあったとして、彼女にとってはそのくらい些細なことである。であれば、たぬきにとってもそう変わらないだろう。

　カレンデュラは、てこてことのんきそうに後ろを着いてくる獣を見て、困ったように腕を組む。

（帰ってくれないなあ）

　お前、森にお帰り、などとカレンデュラは今まで何度か声を掛けたが、たぬきは首を横に振るばかりで、やっぱり着いてきた。言葉が通じているのかどうかすらカレンデュラには判別が付かなかったが、着いてくるというたぬきの意志だけは感じられた。
　しかし、旅には危険が付き物だ。森の中での戦いならカレンデュラにも十分な心得があるが、ここは森ではない。そして、その上でこの小さな生き物を守るのは難しいことのように思われた。
　それに、よく分からないが、街でたぬきが彷徨いてるというのは、あまり良いことではないのではないだろうか。たとえばいじめられたり、売られたり、最悪の場合駆除されたり……。

　もう随分、森から遠いところまで来てしまった。
　このままたぬきを森に帰すのも心配である。

　解決策があることを、カレンデュラは知っていた。
　一つ、たぬきを守って戦えるくらいカレンデュラが強くなること。
　一つ、人前ではカレンデュラがたぬきの飼い主となること。

　結局、たぬきを振り切れず、見捨てられず、やっぱり困ったようにカレンデュラは溜息を吐いた。