一触即発の空気を破ったのは、この世界には似合わないスーツ姿の男だった。

丁度対面上にどこからともなく降り立った男は、マルクトを赤色の眼で見据えた後に、金色の髪を風になびかせながらこちらに目線をやった。

「キムラヌート、貴様もその武器を仕舞え。翼の裏に隠していることは把握している」

何があっても良いようにと護身している小型の竹光を指摘された。共通語で話してくるからおおよその意味合いは受け止められるので、おとなしく腰紐に竹光を通してストラップのようにぶら下げる。

「悪魔が……。ナヘマー、何故邪魔をする」
「いつも邪魔をしているだろう。貴様らに争われたら表裏のバランスが保てなくなる」

相変わらずよく分からない言葉を淡々と吐き捨てるナヘマーと呼ばれたスーツ姿の男は、辟易とした様子で肩を竦める。
とはいえ、こうして言葉でいさめられたくらいで彼が止まらないことは知っている。だから時たま監視役か抑止力かの役割で、ナヘマーという悪魔が止めに来る。
ならばマルクトを仕留めれば万事解決しそうなものを、彼はそうしてくれないし、そうすることを許してはくれない。
現状維持。この危うい綱渡りの状態を維持し続けることが彼の目的だと表面的に受け取っている。
竜、人間、悪魔。三竦みの三種族は集いても、触れ合いは禁じられている。

「復讐の悪鬼マルクト。貴様の言い分は理解できるし結果的に滅ぼされたのは事実だろうが、今は抑えろ」
「ワタシになぜ抑制を強いる！　奴は我が国と民のすべてを滅ぼした邪竜だぞ！　滅ぼさずして何を」
「黙っていろ。しばらくはこの状態を維持し続けることが私の使命だ。ついてきても構わないが、争いはなるべく避けろ」

ということは、この面々が曲がりなりにも旅に同行（？）することになるらしい。
一定の距離を維持したまま、何が起こるかもわからない爆弾を抱えて旅をすることになるらしい。
ふざけているのかと抗議したくなったが、言い分は通りはしないだろう。
もとより、こちらの声はナヘマー以外通じることは無いだろうし、そもそも伝える気とてこの様子ではないのだろう。
かくしてこちらを常に殺そうとしてくる人間と、こちらを常に監視している悪魔が旅に同行することになった。

「……不倒煩的」