「見つけたぞ、我が怨敵」
「…………」

一言でいえばそれはいつものことだった。
旅をしていると野党に襲われるといったことは少なくない。銭に困った農奴が武器を取り、己よりもはるかに強い存在に喧嘩を吹っ掛け、命を落とすというのもざらにある。
勢いだけの馬鹿と形容はしてもそれを笑うことはしない。
彼らは必死だからだ。明日を生きる希望もなければ失うものは何もない。そういった連中を相手取るのは少々恐ろしい。襲われることへの恐怖ではなく、何をしでかすかわからない効果を発揮することに由来するものだ。
話すを戻すと、ゴリラなゴリラと人間の女の一団から先行して見回りに出向いていると、自分を怨敵と謗る男に鉢合わせた。
ただの野党なら問題はない。多人数がいたところでこれまでの相手から慣れてきたが、今回は勝手が違った。
白を基調とした軽鎧を身に纏い、豪奢な白銀色のマントがまぶしく輝いている。桃色の髪から女子らしさを連想させられるが、飴色の瞳はこちらをぎっちりと睨み据えていて、体つきも女のそれよりかっちりしている。
彼が手に持つ大剣は鋭くかなり値が張るものだろう。一太刀でも浴びせられれば致命傷は免れられない。
彼は一人だった。騎士風といった格好の彼は一人でここまで来ていたのだ。
いつものことだった。

「竜よ！　祖国を滅ぼしたその咎は決して許されることではない！　覚悟せよ！」

何度も言うが、必死なヒトを相手にするのは怖い。己はただの旅人であり、襲われた時とて身震いする。
特にこの男は別格で、間違いなく強者なのだ。これまでも幾度となく別の大陸で出会ってきた。自分を追って追いかけてきたのだ。
執念と恩讐が混ざった濁りの在る心に余裕はない。

「使命,御国『華乃国』滅亡必至的,我悪魔的悪鬼竜行使,否災厄的必滅」

母国語しか話せない己が言語は届くのだろうか。言語化すると致命的なまでに分かるまいその言葉(いいわけ)を、男は嚇怒に猛りながらも聞いている。否、聞いているのかすら怪しい限りだが。
何度も口にしてきたその声を、あれは理解してくれないのだろう。

「……麻煩的人」
「貴様……！」

嘆息しながら吐いた声は挑発と受け止められたらしい。彼はその巨大な剣をこちらに突き付けて来る。

「待て、マルクト」

一触即発の空気を破ったのは、この世界には似合わないスーツ姿の男だった。