旅をするだけならまだ容易だ。
適当に町から町へと渡り歩き、依頼をこなし、最低限人と話をするだけならまだ。
他人とあまり関わらないとはいっても買い物はするし育て親の知人と軽い話ぐらいはしてきたし、コミュニケーション能力がゼロというわけではない。
だから旅だけならまだ容易だったのだ。

「呪いさえなければ……」

恨み言を吐きながら少年は大通りを歩く。

一か月以内に誰かと旅をしなければ子豚になる呪い。

今まで半箱入りで育ててたことが嘘だったかのように育て親は突然掌を返し、他人との接触を強要してきた。
少年が変化を嫌っていることを知っていてだ。いや、知っているからこそか。
成長しろというメッセージだろうことは少年にも理解できたが、それにしたって突然すぎる。
住み慣れた家を出て早半月。慣れない宿屋のベッドで睡眠をとることさえままならないのに、期限は刻々と迫ってきているこの現状に目眩さえした。

とりあえずは今日の宿屋の確保は済んだので、空いた時間を適当に潰そうと本屋へと足を運ばせる。
本来ならばこの時間で旅の相手を見つけるべきなのだろうが気が乗らない。単なる現実逃避だということは勿論わかっている。

「色々あるなあ」

少年が住んでいた家の近くにあった村というのは小さいもので、本屋とはっきり呼べるような店も特になかった。
けれど少年自身は物語を読むことが好きだったものだから、遠出をした育て親はよく色んな本を片手に帰ってきてくれたなとぼんやり思い出す。

限られた範囲の中でしか読んでこなかった少年にとって、見たことのないような背表紙ばかりが並ぶ棚は底辺にまで落ちかけていた気分を幾らか弾ませてくれた。
小説ばかりを読んできたが、店内にはそれだけではなくエッセイやレシピ本、活字ではなくイラストばかりが載った本や、紀行文なるものまで様々なジャンルの本が目に飛び込んでくる。

その中でも店で推されているらしい紀行文の一冊を手に取り、ぱらぱらとページを捲った。
物語以外を読んできたことはなかったが悪くはなさそうだ。というよりは普通に面白そうというか、推されているのも数ページ捲っただけでなんとなくわかるというか。

こういう一冊から他人の価値観とやらを勉強してみるのも悪くはないかもしれない。これからのために。

純粋に続きが読みたくなっただけの気持ちにそれらしい理由をこじつけては、少年は会計へと向かったのであった。