「不要である。わたしに施しは必要ない」
「……」

キムラヌートは竹筒の中に入れたおむすびをマルクトへと差し出したが、にべにもなく男はそれを受け入れようとはしなかった。
しょんぼりした様子もなく、キムラヌートはおむすびと相手を交互に見遣った後、自分の腹の中に入れて消化すると決めて口にする。
数日ほど共に旅を同行することになった。剣呑とした雰囲気は変わらずだが、ナヘマーのいる手前、彼が全力で防ぎに来ると分かっているからキムラヌートを襲う真似はしなかった。
時折鯉口を切って誘ってくるために「乗ろう」か迷いかねて頭を揺らしたこともあったが、慣れてみれば大したことは無い。
サムライといった風貌のマルクトは、武人然とした姿に似合わない喧しい色合いの髪を撫でながら剣の柄を地にたたきつける。

「共闘は不本意であるし、この旅は不毛なものだ。わたしは貴様を殺すために追随しているに他ならない」
「……認可」
「この旅に何かしらの折り合いがついたとき、再び死地に至ることを宣誓する。貴様は赦すべきではない敵であるが、手痛い制約がある。ナヘマーの監視の目もあってはおいそれと仕合えまい」
「……」

承知、と瞑目した。キムラヌートは己の腕として機能する翼の爪先に竹光をひっかけ、雑に大地へ突き立てる。
これを金打の儀として、約束する。
いつか必ずこの因縁に決着を。