辰巳
「(ぐい、と御神酒徳利を呷る。お前はいくつだ、と彼を窘める者はいない。そもそも彼は周りの人間から酒を勧められ、二十歳目前にしてすでに酒豪と化したのだ。 さて、据わった目で周りを見回していると――不意に、身の毛もよだつような狂気を感じる。悪意のない、雑じりっ気なしの狂気。 はたと少しばかり酔いが醒め、振り返った先には支離滅裂な言葉を口走る、人の身の『成れの果て』とでも言うべき存在。 ――しかし、彼を忌み嫌うことは何故だかできなかった。彼に対して興味を抱いたのもあるし、酒の力もあったのだろう。偽善もあったかもしれないし、そのようなものでは説明できない何かがあったのかもしれない。それならばいずれその意志は矮小な人の身では理解できぬ。 とにかく、彼は四本腕の狂気へと声をかけたのだ)」 |