棺桶と少女の一週間

　言動は支離滅裂で行動は奇々怪々。真偽の境界すら曖昧であり、善悪の概念さえ持つかどうか。およそ、その人格と接触を持った者の大半は認識の不協和音に振り回され、那由他の果てに意識を飛ばしてしまう。そうした人格の持ち主は時に神の使いと崇められ、悪霊憑きと恐れられ、狂人と蔑まれてきた。彼女もまたそう分類された人種の一員であり、周囲へ受信困難な電波を振り撒いていた。
　しかしながら彼女が神として畏怖されているかと問われれば首を振らざるを得ない。さりとて悪魔と呼ぶ程の悪性も持ち得ず、単なる狂人と呼ぶには聊か常軌を逸しすぎている。そんな風に分類の境界を漂う彼女を端的かつ的確に表す言葉を挙げるとしたら「その単語」が最も適当であろう。
　それを生み出したのは現代に発生した新たなる邪教徒。人種、性別、年齢を問わず、統一された教義すら持たず教祖さえ存在せぬ異端。布教をも行わずに増殖する狂気の思想集団。口々に萌芽を意味する淫猥なる呪文を唱え、怪異なる永劫の果てに憩う崇拝対象への偏執的な愛を己が世界の中心にて絶叫する冥き伝道師。彼らは背徳的な熱情を籠めて彼女のような人種をこう呼んだ。

　――――不思議ちゃん、と。

　　　　　　　　　　　　――――とある吸血鬼に憑依された少女に対する一考察