Diary
父様は言っていた。
『この私の会社を継ぎたくば、それに相応しい器を身に付けて来なさい』
――その為には決して怠惰など許されないこと。
その為には決して困っている人を見捨ててはならないこと。
国に居た頃、他にも、色々言われたっけな。
……まあ取り合えず、だ。その、困っている人を見捨てないこと、っていうのには……別世界の人間、って奴も入るのだろうか。父様。
召喚士とやらに誘われるままに来てしまったこの世界。
昼夜のおかしくなったというこの世界を、どうしても見捨てる気になれなくて、僕はこんな所に来てしまった。
「ああああああぁぁぁああ゛」
草原に寝転がったままの姿勢で、頭を掻き毟る。この体はどうやら召喚士が言うには僕のものではないらしいので、傷を付けないように細心の注意を払いながら。
そして一通り掻き毟り終わった後、落ち着いて、深呼吸して、空を見る。
ああ、やっぱり夜だ。
僕がここに寝そべって何時間経ったことだろう。前回飯を食った時間なんてとうに忘れている。
だが夜だ。日が明ける様子など微塵も見えない。
ああ、僕は大変な世界に来てしまった。
「修行のためってったって、限度があるだろおおおお……!」
まさか別世界だなんて。それもまた、陽の光の当たらない常闇の世界だなんて。しかもしかも、魂だけの存在になってだなんて。
――その日1日は、自分の愚かしさにうな垂れながら、僕はただそこで、ずーっと、自分の諦めがつくまで、晴れてくれない空に呪詛を吐いていた。
ああ、いくら父様の教えだからって、我ながら忠実に守りすぎだろう。
その日は、自分の愚かしさをただただ呪うしかなかった。