Diary
きつく陰影をつくるふるさとの太陽を今はまだ思い出す。明るい直線の日光、
それはこの土地に欠けているものだ。草木の萎れ虫たちが声を潜める、暗く寒い宵闇のカレイディア。路地裏に猫の鳴く声。
牛の振る尾に根負けした蠅が積まれた麦穂に羽根を休めていたながめも、
夏の日に水浴びする娘たちを冷やかして川を横切った記憶も、
めまいがするような熱い太陽を浴びながら裸足で砂利道を逃げたときの朦朧も、
この暗く沈んだ国に今は、掻ききれない痒みとして立ち現れる。
法院の何人がこの地の実際を知ったろうか? ただいくつもある他時空の召喚の呼び声のうちのひとつをたまたまに選び、
それがこれほどに流刑に適した地とはきっと思わなかっただろう、
まったく刑罰にはじゅうぶんの土地だ。
英雄としてここに呼ばれおれは剣を振るうことを選んでいる。流刑者 おれはこの土地に慣れるしかない、
すればこの土地に受け入れられるほかはない。ひいてはおれがこの土地を受け入れるよりほかは。
英雄らしくあれるかはわからないが、粗暴のうちに少しの人間性を保つ者を戦時下の英雄と呼ぶなら、
それはあんがいおれたちの土地で犯罪者と呼ぶ者と似通っている。
ふるさとでは平和はひとつの現実だった。しかしここではまだ平和は理想にすぎない。
だれも思い描こうとしながら時に疑わざるをえない望ましい未来図、
しかしそれは血まみれの現在の先にしかありえない。
時代の動こうとするその力学は、もう長いことおれのふるさとでは失われきたものだった。
歴史の趨勢のねじれさかまく渦中の土地へ呼び出されたのに、少しの幸運を感ずるのは不謹慎だろうか?
おれは流刑者 もはやもどる行方もない
帰るべきふるさとにあってはとうにおれは裁かれ 物語は終わった。
今夜、この長い今夜、ひとつのイデオロギーが築かれるこの革命の晩に、
剣をふるうひとつの芥として名を刻む、
それくらいの余興であるなら、おれの歴史のおわりにそえる花には妥当だろうか。