キースタワー
ヴェル・マーテ は扉の中へ入った。
扉の中は狭い通路が奥へと続いている。
数メートル先も見えない闇だが妙に安心感を感じ、ヴェル・マーテ は灯りもつけずに闇の中へ足を踏み入れた。
手探りで進むヴェル・マーテ の前に、突然輝く光の玉が現れた。
不思議と温かみを感じるその光は、誘うようにふらふらと奥へと動き始めた。
ヴェル・マーテ は誘われるまま奥へと向かう。
光の玉は徐々に速度を増し、ヴェル・マーテ もそれに合わせていつの間にか徒歩から駆け足に変わっていた。
やがて光は速度を落とし、気がつくとヴェル・マーテ は光溢れる部屋に居た。
目の前では檻に入れられた子供がうずくまって泣いている。
手を伸ばすと、子供はヴェル・マーテ の方へ顔を向ける。
近くで見ると、子供は傷だらけで、顔にもひどく打ち付けたようなあざが残っている。
檻は頑丈で、開ける事も持ち上げる事もできない。 しかしその痛々しい傷に思わず伸ばした手をあてがい、癒しの魔法を唱える。
見る間に傷は癒え、子供は不思議そうな顔をしながらも笑顔を取り戻した。
次の瞬間、はっと気がつくとヴェル・マーテ は元の扉の前に居た。
あれは何だったのか、それは分からなかったが、心の中に暖かい灯火が灯ったような気がした。