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ライスケイク大陸の北東、カシワ砦。
占領されたその砦のどこからか乾いた剣戟の音が響いてくる。
地下にある水路へ繋がる狭い通路に老騎士オモチウスは居た。
周囲にはカビモチ軍の兵士達の死骸が転がっているが、カビモチ兵は臆する事もなく、次々にオモチウスへと襲い掛かる。
瞼に浮かんだ孫娘の顔をかきけすように、オモチウスが剣を振るう。装甲ごと両断されてゆくカビモチ兵。しかし激しい戦闘の中でオモチウスの剣は損傷し、オモチウス自身の体力もまた限界が近づいていた。
そして「その瞬間」はあまりに呆気無く訪れた。
切り伏せたカビモチ兵の血が、オモチウスの顔にかかった。
咄嗟に目を瞑るオモチウスの隙を、攻撃の機会を伺っていたカビモチ魔導兵が見逃す筈はなかった。
鎧を貫通して殴られたような衝撃。体がむず痒くなるような浮遊感。状況を理解しようとするオモチウスの思考は、直後、背後を壁に叩きつけられる激痛で吹き飛んだ。
視界が点滅する。急に体が水に覆われてしまい、慌てて飛び起きた。
どうやらオモチウスは魔法で吹き飛ばされ、階段の下にある水路に落ちたらしい。感覚が戻ってきた所で、壁だと思っていたものが水路の底だったと分かった。
前方からカビモチ兵達の声が聞こえてくる。だが、もう体に力が入らない。
水路に王子の船はない。それはそうだ、もうとっくに海に出ている筈だ。カビモチ兵が後を追おうとも追いつくことは出来まい。
カビモチ兵の声が大きくなり、鎧がこすれる金属音が何重にも重なって聞こえてくる。 オモチウスは死を覚悟し、最後の役目を果たせた安堵感の中でゆっくりと目を閉じた。
だが、それでもひとつ、心残りがあるとしたら。
地震と、雷が落ちたような轟音。地上側から通路にぼっと埃臭い風が吹き抜け、カビモチ兵士達からは叫び声があがる。瞳を開ければ、自分を庇うように立つ赤ローブの小さな人影が目にとまった。見間違える筈もない、それは最愛の孫娘の姿。
その言葉通り、水路のあちこちには大きな亀裂が入り、所々は崩落しているように見えた。
一瞬、あたりから音が掻き消えた。
モペティの瞳は赤かった。私を心配してくれたのだろう。たった1人の肉親を失う恐怖もあったのだろう。考えるまでもなく、王子も私の身を案じてくれていたのだ。
ただ私はこの状況において、僅かでも王子の生存率を上げる事が騎士として正しい道だと信じていたのだ。
しかしそれは……家族や主の想いに反してまで貫くべきものだったのだろうか。分からない。今でも分からない。けれど。
未完
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