「先日、契約主が森林地帯で敗走したんじゃが…
動けば動くほど危険な状態に陥るというに、何を考えておったのか
連撃を繰り返して通常の10倍の早さで失血してあっという間に倒れよった」

「敵についてよく調査をしていなかった事が敗因だろう。
一撃重視の戦法でも微妙なラインだったが、敵の技の事を理解していれば
幾ら何でももう少しやりようはあったと思う…彼を知り己を知れば百戦殆うからず、だ」

「最低限やる事はやっておけ、という話じゃな。まぁ元の"世界"ではそれなりの腕前を持っとったらしいし
放っておいても平気じゃろう、ニッチもサッチもいかなくなる事は無いハズじゃ。
…付き合う側としては少々心配ではあるがのう」

「黒騎士に限った話ではないが、突貫を前提とする能力を持っておるようじゃの。
各々が対応した技術やギフトを駆使せねば突破するどころか鎧袖一触で追い返されるやもしれぬ。
…コア殿らのところは後一歩及ばなかったようじゃが、故に収穫はあったのではないじゃろうか」

「巨大化は負けフラグだって誰かが言ってたような…
でもそうなったらラクでいいかもなあ、こっちは現王の所まで辿り着けそうにないもん。
でも今必死で現王への道を模索している人達にとっては…どうなんだろうね、それも。
自分達の切り拓こうとした道が向こうから繋がられたら拍子抜けしちゃったりしないもんなのかな？
一揆衆としてなら、願ってもない事なんだろうけどさー」

「元人間…か。確かに、そうだな。
特に城内で顕著だったが、人間だった頃の意識が僅かにだが残っているような言動を見せるもの達とも
何度か遭遇した事がある。尤も、理性を保っている様子ではなかったがな。
現王やその部下達に操られているのか、自分の意思かは分からないが」

「……」

「しかし…その"違い"とやらを生じさせるものとは一体何だろうな？
ネクターか、はたまた全く別の異なる何かか…自然に起こる事であっても、切欠となる事象は必ずあるだろうしな」

「そうじゃな、その解釈で概ね間違いはないじゃろう。
我のようなものもいれば、ガスティ殿やマハ殿、ムツ殿のようなものまで様々じゃし
我らを構成する要素次第…我らの場合は"獣"という要素によって
そのエンブリオとしての特性が発現するのであって、姿形は重要ではないのかもしれんな」

「人間社会というものは我らから見れば裕福で便利この上ない生活が保障されておるが
その代償というか、対価として野生生物とは比較にならぬ様々な制約が課せられておるからのう。
そして一度利便性を得てしまえばそう易々と手放す事はできん、難儀なものじゃな」