［基本］OK.　［戦闘］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

――そうして。
心行くまで俺を女にしてくれた恨みしかないクソガキを他力本願でシバいてもらって。

ああまぁ、戦闘狂が多いアンジニティと普通の生活をしてきたイバラシティの殴り合いをしたら、
アンジニティの面々が勝つのは当然な訳で。
イバラシティに味方をした物好きと、
アンジニティのが好きな物好き以外はガラっとアンジニティから出払うことになるわけで。
これはもしかしなくても戻ったら俺はいくらか平和に過ごせるんじゃないだろうか。

賭博場や酒場の外に一歩出ただけで袋叩きに会う生活から――
……いや、食料すらろくにない世界じゃ喧嘩は相変わらず売られるか。
前より理不尽な強さにさらされない可能性がいくらか増えるが、人口は増えるだろうし。
何はともあれ、アンジニティも勢力図がガラッと変わるだろう。
俺からしたら女になるイバラシティと、
ナレハテになるハザマから抜けれれば正直他はどうでもいい。

とりあえず言えるのは、イバラシティの奴らからしたら阿鼻叫喚であろう今回の事件は、
俺からしたらやっと非日常が終わって元の殺伐とした、だけど堕落した日常に戻ることになったのであった。



------------------------



「――んで？どうしてこんなところで待ってれば俺に会えると思ったんだ？
普通キャンプとかチェックポイントで探すだろ？なめてんのか？あ゛？？
イバラシティはともかくハザマでまで保護者になった覚えはないんだが？」
「だって。あの女の子に気づかれない程度の位置で待ってたら１回ぐらいは会えないかなって」
「どう見たってここはあのクソガキいなければただの草原なんだが？？
しかも殴り合い嫌いな俺がわざわざ近寄ると思ってる時点で間違えてる」


薄情すぎるとかぶちぶち文句言うのは、イバラシティで面倒見てた金髪隻眼のガキである。
確かにどこにもいなかったので心配はしてはいたが。
何もこんな所で待っている阿呆なら、
そのまま放っておいてよかったのではないかと今更後悔している。
普通アンジニティ側のキャンプでまぎれてて会えないだけとかだと思うじゃねぇか……


「いやでも、キャンプにいたとしても今回はアンジニティ側にいたから会えなかったんじゃない？
だって女の子になりたくないからイバラシティについてたんでしょう？
僕、普通にアンジニティから正規の手続きで出ないで悪いことして出たから、
今まで立ててた人柱の代わりにアンジニティに戻って参加してたし」
「ああ、躍動の世界から落っこちてきたんだっけか。お前ホント鈍いし迷うし困った奴だよな」
「そうそう。もう、色んな人に怒られてたからやっと一安心できる」
「ま、お前がまた間違えて落ちてくるか、
俺がうっかり外の世界に出ない限りはもう縁ないだろうが……
あんまり迷子になって周りに迷惑かけんじゃねーぞ」


なんだかんだでイバラシティで一年以上生活していたから多少なりとも保護者気分が抜けず、
ついつい頭を軽く一撫でしてしまう。
ま、女じゃなければあの生活も悪くなかったってことだな。

さてと、すっかり減ったトランプの代わりに新しい全部揃ったトランプも用意したし。
ダイスもついでに新調したし。
後は戻るまでになんかうまいもん作って待ってるか。
またパンの耳生活に戻るだろうし、
持ち込めるかわからんが今のうちに作りだめしながら体調整えとかねぇとな。



------------------------



ああ、やっぱりこうじゃないとなぁ。


テーブル上に転がったダイスは目の前の食料源のためにほんの少しだけ細工してある。
普通に転がせば普通に転がるダイス。
当然出目もまばら。
でも、ある角から落とせば出目が大きくなるように細工している。
渋々出してくる数日分の食料をいただくと、今日のところはさっくりと引き上げる。
わざわざ殴り合わなくても賭博で最低限飯にありつけるのは俺からしたらとても有難いことだ。
持ちすぎると必ずヤバいのに絡まれるので、少なすぎず、多すぎず持つようにしている。
それでも絡まれた時は可能な限り撒いて、
無理なら早々に諦めて身ぐるみはがされるようにしている。
俺は元々よくわからん能力のある世界の出身でもないし、
ただの賭博師だからヤバいのに勝てるわけないどころか速攻で殺されてしまう。

まあそんな軟弱な俺でも先日の事件でここでは少なかった知り合いがいくらか増えたので、
たまーに顔見知りと酒飲んだり、飯食ったり、賭けずにカードやらダイスで遊んだりしている。
今日もこれから誰か遊びがいのある知り合いがいないか、
ふらっと街といっていいのか怪しいアンジニティの拠点を一回りする予定だ。



――青年のポケットからどこか懐かしい柄のトランプのJOKERが一枚ひらりと落ちた。

特に何もしませんでした。