［基本］OK.　［戦闘］OK.　［戦闘:エイド1］OK.　［戦闘:エイド2］OK.　［取引］OK.　［スキル］OK.　

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？？「…せ…ぱ……」




？？「……先輩？寝ちゃってます？　おーい」




夢の淵から引きずり出すように 意識の外側から声が響く。
暗闇で立ち尽くす。自分が何者かも、どんな夢を見ていたかも忘却したまま。
ええと、確か自分は……








薄ら目をひらき、ビニール越しの板の間と 酒の少し残ったグラスに気付いて
初めて　家飲みの床で突っ伏してしまったことに思い至る。
床に めり込むほど身体全体が重い。アルコールが回っているのだろうか。






渋々目をこすって顔をあげると、先ほどの声の主が不思議そうに こちらを覗き込んでいた。








「あ、起きたっすね。おはよーございます、ホコリ先輩が珍しいすよね こんな早くから潰れるなんて。」
「ええと……あれ…いつの間に寝てたんでしょうね……？」
「さぁ？俺らが追加を買いに行ったのが８時前だから……そのあとなんじゃないっすかね？」

意識を手放してから どれだけの時間が たっていたのか。
傍らのPCガジェットには ８月３１日午後８時半すぎが表示されていることから、
１日とか１週間とか そこまで長時間眠っていたわけではないようだ。

「先輩なんか最近お疲れっぽかったから、何か そういうの あったんじゃないんすか？」
「うーん……特に心当たりは…。」
「まぁ先輩この時期仕事ないっすからね。」
「あー…そういうところですよ たぶん。自分の心労は。」
「ｱｯサーセンした！てへぺろ」

「全く、先輩の無職期間（クールタイム）を弄るのは その程度にしてくださいよ ハル。」
「あ、シュン！早く茹でて～」

まだ本調子に なりきれないところに、扉の閉まる音と別の声。
伸びをして ようやく身体を起こすと 買い物袋を持った もう一人が入ってきたのが見えた。








「おかえりなさい……シュンくんのそれも普通に ぐさっと来るんですけど？」
「すみません。事実を指摘するのが性みたいなものですから。」
「事実…。」

二人とも高校からの気の知れた友人ゆえ 集まれば すぐ こういう感じになる。
何かを忘れているような感覚も薄れていき、和やかな空気に流されていく。

「先輩 台所借りますね。」
「ああ、すいません。ご自由に。」
「いつもの感じで～！」
「わかってますから。…手伝ってくれてもいいんですよ？」
「俺が塩もみ やると百発百中塩ぶちまけるけどいい？」
「ダメですね。」

袋から取り出される緑色――旬の枝豆。今宵、追加の つまみだ。
チャキチャキと手早く枝を切る音を聞きながら、訳あって参加できない２人は遠目で台所を見守る。

「そういえば、そろそろホップの収穫時期でしたよね。」
「そ、今年は再来週の日曜に収穫に行くんすよ。
　『モリぐび』事業も おかげさまで ５年！今年のも早く飲みてぇ～！」
「１２日……ちゃんと自分の分残ります？地域に配る分も。」
「も～それできなかったら さすがに俺らの事業つぶれるすよ！」
「僕の仕事までハルの都合で失くさないでくださいねー」
「シュンまで～！もっと信用してくれたっていいだろぉ～？？」

二人の仕事は「タニモリ区に森をつくろう！」をキャッチコピーに活動するグリーンインフラ事業。
ホップを使ったグリーンカーテンを育てたり、それを使ったビール事業等をしている。
収穫から仕込みをへて約1か月で出来上がるので、１０月半ばごろ区内外で販売が始まるだろう。
……自分たちの好きなこと・得意なことを活かした仕事ができている彼らが、自分は正直羨ましい。

話が咲いて盛り上がる脇で、ぐつぐつと湯の煮え立つ音も聞こえてきた。
さあっと塩もみされた枝豆が投入されていく。ここから ３分弱、こちらまで香る塩風を感じるころには、

「…うん。ハル、毒見の時間ですよー」

１莢が宙を舞う。

「あっつ？！あと言い方！食べるけど！　…ん、ふふ、い～んじゃなぁい？」
「じゃあ持っていきますから。」

シュン特製少し硬めな枝豆の出来上がり。机がない我が家では ドン、と そのまま床に皿が置かれる。
まだ熱が残るうちに食すのが我ら流。すぐさま皆で むき始めた。鮮やかな萌黄色が目にもおいしい。
吸い込まれる一口。飲み直しの一杯。
ほかほかで存在感のある豆の歯ごたえと塩気が冷えたビールを勧めてくる。
残念ながら、昨年分の事業ビールは とっくに切らしていて、これは市販の缶ビールなのだが。
３人で夢中で貪る。酒をあおる。なんだかんだで この時が とても幸せだ。

「あーうま。俺やっぱ、このために生きてるわ。」
「それちょっと考えてました。」
「だよなあ！シュンもそうだろ？」
「言わせないでください。やはり時期が良いですから、新鮮で。」
「今度枝豆の事業もやる？セットで買えるぜ。」
「『モリぐび』は少し枝豆と ずれますから、…どうですかね？」
「いいんじゃないですか？"こういうの"も出したりとかして…」
「先輩その段ボール何すか？」

部屋の隅から重い段ボールを引っ張る。中には黒い土が いっぱいだ。
ハルは目を丸くしていたが、さすがはシュン こういうことに詳しかった。

「もしかして、これ"コンポスト"ですか？」
「そうですよ。ちょっと始めてみたんです。」
「シュン、コンポストってなんだ？」
「生ごみなどの有機物を入れて、中の微生物に分解してもらい堆肥を作るシステムです。
　……なるほど、では残った莢も…？」
「土に混ぜ込んで自然に還す。そうすれば肥料になって、またそこから作物が育つ。」
「そっか！作物から出る生ごみもまた……循環型の社会ってやつっすね！先輩天才じゃないっすか～！？」
「あはは 先人の知恵ですよ。」
「ホップの肥料代は これまでビール事業で賄ってきましたが、コンポストを各家庭に配布できれば…
　金額的節約も そうですけど、土があれば植物を育ててもらう きっかけにもなるかも……」
「いいじゃん！それ採用！来年度から『ハルウララ』はコンポスト事業を始めま～す！宣言！」
「枝豆は どうするんです？」
「枝豆も～！やるぅ～」
「さ、さすがに同時に ２事業開始は見積もり出さないとですから！」
「ぐへぇ　あっあのさっ先輩の従妹の…名前忘れちゃったけどあの人お金持ちなんショ？出資してもらえな…」
「こら！先輩から せびるんじゃない！すみません先輩、気にせず…」
「はは…うん……。でも、あの人なら 一定の地位さえあれば…
　君たちが もっと活動して、有名になったら、自然と協力してくれると思いますよ？」
「ほんとに？！俺あの人に振り向いてもらえるように頑張っちゃうぜ…？」
「浮気は ダメですから…事業提携は うれしいですけど。まずは知名度アップ、ですから。」
「わーってるって！俺の正妻は世界に ただ一人シュン様だけです～ってなぁ！」
「…ふん、よろしい。ならば事業計画書を書くのです。」
「また人の家で いちゃついてますね…いいですけど。」

話している間に そこまで食べた記憶はないが すっかり消費しきった枝豆の残骸を、コンポストに流し入れる。
やりますよ、と シュンが土を混ぜ返して……気付く。

「先輩……このコンポスト、いつから始めたんです？」
「ええと、…ひと月近く前？」
「全然土になってないですね…生のまま腐ってもない。夏場なのに…
　あと普通は多少なりとも発酵臭が したりもするのでは……」
「え？……」

よくよく土を掘り返してみると、底のほうに見たことがないサイズの変形菌がいた。
本来分解を促す微生物を 粘菌が食べてしまったらしい……。

「まぁその……こういうことも…ありますよね。」
「無理に フォローしなくていいですよ。まず自分ぐらいにしか起きないので。」

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その日の深夜。

暗い室内、傍らには二人が仲良く眠っている。
自分も横にはなっている…が、酒盛りも終わって気持ちいいほどに酔っ払ったはずなのに
直前に眠ってしまったせいか、妙に寝付けずにいた。

無理やり目を閉じていても埒が明かないので身を起こす。
ふいに胸元で「べちゃり」とした感覚。
ぞくっとして インナーを捲り手を突っ込んで どうなっているのか確認する。
粘ついた感触に触れ手が止まる。なんだ と安堵し 改めて捲り上げてみると、
先ほどコンポストから回収した巨大な変形菌が自分に跨って蠢いていた。

「……脅かさないでくださいよ。」

ヒュゥと ため息。慣れたことではあるが、
自分以外の生命体に身体を這い廻られるのは やはり何となく むず痒く くすぐったい。
寝ることは諦めて、よろよろと夜風に当たるため外に出ることにした。


外への扉が開くと むわっとした熱気に驚く。
ここ数日…いや数か月続く日照りの影響で、夜間の熱が逃げにくいのは厄介だ。
自室は同居人の異能影響で空調が要らない…すっかり忘れていた。
うっかり いつもの作業着で出てきてしまったが、すぐ戻るからいいだろう と歩き出す。

タニモリの深夜は駅周辺でも人出は少ない。寝静まった空気感。
それでも ひと気を避けて北の方角へ歩を進める。
しかし蒸されるな。熱帯夜に虫たちの声もよく通っていた。
道の突き当たりには あの二人の仕事場もある。
ふだん１階は誰でも出入りできるのだが、夜間は鍵が閉められていた。

しかたなく道なりに歩いて右と右に曲がって、
見えるのは見慣れた鳥居。

「いつ散歩しても ここに来ますね。」

酔った千鳥足。吸い込まれるように潜る ここは ヤガミ神社。
以前来たとき色々あったため来る機会は減ったが、
それでも いちばん身近な「森」のある場所だ。
丁寧に祈祷を済ませ、（竹林を避けて）裏手にある鎮守の森へと向かう。

青い世界を進み、ある程度奥まったところで 木に寄りかかるように腰を下ろす。
ふわふわの苔の手触り。背の樹皮の存在感。呼吸する植物の中だが気持ちだけでも涼しい。
目を閉じて木々の鼓動を聞いてみる。深呼吸をすれば夏の匂い。
森の闇に浸る――。

……そういえば、さっき何か夢を見ていた気がするな と思い出した。
しかし。それ以上の記憶は蘇らない。"夢を見ていた"という記憶だけが残っている。

「なんだかなあ……。」

とても心地よかったはずなのに、もやもやとした感覚。うまくいかない感覚。
夢など忘れて当然だけど、これもまた数多抱えた失敗の一つにカウントされた。
コンポストも上手くいってなかった。また異能制御できなかった。
きょうも酒に潰れてしまった。ああ、ヤガミ様。こんな自分を許してください。



？？「相変わらずね、ホコリ。また神頼みばかり。」



風。 聞き覚えのある声。
声の方向を見やると、人の影と その足元を囲むように地に白い円紋様があった。

「…誰かと思えば。何ですか、また自分を嗤いに来たんですか？」
「別に私だって いつもいつも貴方を気にかけるほど暇じゃない。」
「そう、ですか。」
「散歩散歩。歩いてたら ここに来ただけ。」

見上げて顔を確認しようとしたが無駄だった。ピッタリ嵌まった白狐の面があったからだ。
はみ出した白い髪が下弦の月に照らされ光っている。
誰かは解るが、判らないほうが……いいのかもしれない。

「神の使いのつもりですか？」
「そうとも言えるかもね？」
「気に入っているんですかね。」
「そうとも言える。」
「はあ。」
「座っていいかしら。」
「どうぞ。」

影は自分の寄りかかる木の 真後ろに回り込んで腰かけたようだ。
ざわざわと枝が擦れる音が聞こえている。

「そのお面、あの時の？」
「よく覚えてるのね。２０年ぐらい前じゃない？」
「そりゃ初デートの日ですからね。」
「私はデートだなんて 全くと言っていいほど思ってなかったけど？」
「君も昔は ここまで高圧な態度ではなかったですし。」
「かなり酔ってるのかしら酷い言いぐさね。貴方も昔は もう少し身なりに気を遣っていたのに。」
「…なぜ隠れるんです？」
「落ち着くのよ。"ここ"に いるときは本当の自分でいられる。貴方も同じでしょ？
　そうだ、『生まれ変わるなら何になりたい？』って聞いたときのことも覚えてる？」
「ええ。何と言ったかは忘れましたけど。」
「こんな姿、ほかの人間に見られたら たまったものじゃない。」
「自分は いいのですか？」
「仕方ないじゃない。本当にいるとは思わなかったし。」
「いる気はしてたんですね。」
「だって貴方この時期、暇だもの。」
「否定はしません。」

「相変わらずね。」
「さっき聞きました。」
「あえて もう一度言ったの。」
「何度も言わなくていいですよ。」
「ああ、ああ、そういうところが相変わらず。」
「何か言いに来たんですか？」

沈黙。しかしそれは一時的なもので。
がさがさと漁るような音。森の ざわめきが強くなる。

「貴方、話を"聞けた"そうじゃない。」
「……二人から聞いたんですか。」
「風の噂よ。」
「隠さなくてもわかります。自分は あの二人にしか言っていないですし。」
「で？　実は裏で何かと戦ってるわけ？」
「いや……自分は何も。"詳細は後で"と云われたまま音沙汰なし。
　悪戯だったのでしょうか。」
「そうなんでしょう。貴方に そんな大層なこと任せられない、逃げるだけの人間にね。」
「言ってくれますね…。これでも自分に"誇り"はありましてですね、」
「"誇り"で戦えるの？」
「……そうですよ、相手が どうだろうと立ち向かう気概はあります。
　この場所を守るために。もちろん あの二人や町の人、君だって例外じゃない。」
「私も含まれてるの？それは良かった。」
「当たり前でしょう？だって、君は…君は自分の理解者で、その……大切な人です。」
「ホコリが言うようになったじゃない。やっぱり何かあったのかしら。」
「何かあったら こんなところで潰れてないです。」
「本当に守ってくれるのか心配ね。」
「時が来たらやりますよ。なけなしの力ですが。」
「じゃあ、その"誇り"示してもらおうかしら。」
「え、今？」
「何か文句ある？」

褥を分けて、自分の横に何かが置かれる。
――矢？

「ま、無理ならいいけど。どうするか考えて、あとで報告して頂戴。じゃあ。」
「ああ、ちょっと待ってください！」
「質問は受け付けてないから。」
「そうではなくてですね！ハルくんからの伝言を。
　"新事業を始めるから出資してほしい"と――。」
「そう、もっと地位をあげてからって伝えて。」
「それはもう自分が言いました。」
「……言い忘れてたけど、貴方も私の大切な理解者よ。」
「…ええ。」
「ごきげんよう、ホコリ。」
「…じゃあ、また。夜間なので お気をつけて。」





風と共に 白い髪の君は闇にとけるように、地に白円を描きながら立ち去っていった。
残された自分と、矢。　不自然な形で渡されたものだけに、
初めから これを渡すために来たのだろう、ということは察した。

「しかし、なんでしょね……これ。」

拾い上げて見たところ破魔矢に近い装飾がされているが、鏃は金属だった。
"誇り"を示す……。覚悟を決めろということなのか。君なりの励ましなのか。

酔った頭では よくわからない。…が、見ていると、頭が くらくらする。
月を受けて輝く鏃。自分の瞳が くっきり映り込むほど鋭く磨かれている。
自分か…。家に鏡なんてないし、数年ぶりに見たような――










――何かに、突き動かされるように。
――何かに、誘惑されるように。













――気付いたときには、自分の胸に 矢を突き立てていた。








再び身に走る悪寒と 滲む痛みに はっと我に返る。
慌てて矢を引き抜くと、痛みは切り裂くような激痛に変わった。

「　　　　　　？　！」

声にならない絶叫。ぱたぱたと激しく水が落ちる音。速く、苦しく、定まらない動悸。
一体何が起きた？どうしてしまった？
血が…止まらない！混濁する意識。傷を塞がなくては。
手で抑えられない。なんだ、胸元で蠢く水気。粘菌か？
止まれば何でもいい、粘菌を集める。開いた傷口を埋め立てる。
止まれ。止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ！

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いつの間にか血が噴き出る感覚もない。気を失っていたのか。
森の中、起き上がろうにも うずくまったまま動くことができない。状況がわからない。
でも意識が戻ったということは、命は取り留めたということだろうか？
視線を胸へ移すと、真っ赤な心臓サイズの菌塊が傷の上で脈打っていた。
しかも全身を 血を吸った変形菌が毛細血管の如く包んでいる。動けないのは これのせいか。
より血の気が引いたけれど、生まれて初めて自分の異能が役立った 気がした。
覆った粘菌を退けようとするが、ただ脈打つだけで むしろ質量を増していく。脱出は難しそうだ。
そして これもまた、数多抱えた失敗の一つにカウントされた。

天は少し白んできていた。朝になったら発見してもらえるだろうか。
しかし、そもそも ここは鎮守の森の奥だから、昼でも見つからないかもしれない。


……血だまりの中に【花】が咲いているのに気付く。
名前は忘れたが、確か神話がある。シュンくんが教えてくれたんだっけ。
……少女が想いを伝えるため 自らを矢で傷つけ出た血から咲いた"誇り"の花……
ああそうか。「"誇り"を示す」とは、そういうことか。
もう少し考えれば思い至っただろうに、やはり酒漬けの頭では緩んでしまう。
…いや、ここまでのことを そもそも君が望んだだろうか。せいぜい指の腹を割るぐらいだろう。
なぜ自分は自分から胸を刺したのだろう。目が合ってから記憶が曖昧だ。

しかしまぁ……神話は本当だったのか。君に この花を見せたら、きっと驚くに違いない。
目の前の超常現象に理解が追いつかなくて、なんだか笑えてくる。


「あは、ははは……




　………………ダメだ。」


大変なことを してしまった。もう少し考えれば思い至っただろうに。
神話。神。神社。

こんな"神聖な場所"で"何をしている"？

顔が青ざめている。
身体が動かない。動けない。縲絏の中のように。

死や血は穢れだ。　鳥居を潜った先で、穢れた行為をした！



つまり、それが意味することとは――
自分は――

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…。





………。





…………………。










………あ、あの二人。





自分は ここですよー……　おーい　…っと。





……やはりダメですね。　"縁が切られている"。
目にも映っていない 記憶にも残っていない となれば、どうすることもできませんね。

当たり前ですよね、ヤガミ様。
自分は自分の異能を理解せず、自分のことにも気を配りませんでした。
今回の件は間違いなく自分の非でございます。申し訳ございませんでした。





…はい。





……はい。仰せの通りにいたします。





………はい。





…ええと？





……仰る意味が よく分からないのですが。





願い？　向こうの自分の？





………向こうで そんなことを仕出かしたのですか、自分は…罰当たりな……。
いえ自分も今しがた相応に罰当たりな行為をしたのですけれど……。

でも、なぜなのでしょう？





……………縁、ですか。





それで矛盾が生じる、と……。





つまり、向こうの自分の思いが…僅かに上回ったのですね。
誇れる森か……何があったか まだ知らないけど、気取ったなあ。
自分が役立てるのなら、その"約束"果たすまで。










………良いのでしょうか。










ああ、感謝いたします。　ヤガミ様…。

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それから時間が流れ　"その時"を迎えた。


一方の、明るき響奏の世界では侵略が成功し、
混乱こそあれ、かの森の緑が ますます茂ろうとしていた、が――

もう一方の、仄暗く、荒れ果て閉ざされた世界。 ここには、
住処となる世界を追われた元響奏の住人が閉じ込められることになった。
泣き出す者もいただろう。怒りに震える者もいただろう。

その どよめく群衆の中に――白い髪の君もいる。








「ああ ホコリったら ひどい。私から地位を奪うなんて。」


根幹とも呼べるものを失って 私は虚無に襲われた。
近くに見知った顔もあったけれど、もはや体裁を繕っている場合ではない。





群衆。といえば、イバラシティでの遠き日、とある祭りの記憶。
ここ２年ほど架空の記憶に書き換わっていたが、いまなら本当のことを思い出せる。
白狐の面は まじないの窓。その向こうの、神に祟られ【そもそも存在しなかった少年】のことを。


「『生まれ変わるなら何になりたい？』なんて。バカな問いするんじゃなかった。
　"私の願い"を奪って、まさか"ホコリが森になる"なんて。……絶対に取り返してみせるんだから。」


…そして書き換わっていたときの記憶。【縁が存在しなくなった青年】のことを。
私だけが今も こうして存在を思い出せるということは、
例え カミサマとやらでも"私達の因縁"までは切れなかったということ。
イバラシティでの取り込みは失敗してしまったけど……縁があれば、また貴方に近づくチャンスはあるはず。





私は群衆から立ち去る。いつまでも私が この ゴミ溜めに居るのは許せない。
踏み出す爪先、地に波紋のように白い円模様が描かれていく。
その背中に 知り合いたちの声が聞こえたような気がした。


「あっ…先輩、何処に行くんです？こんなところで独りは危険ですから…！」
「待ってってば～！置いていかないでくださいよ 先輩！えっと……チイ先輩！！」

ENo.357 九郎 とのやりとり


ENo.539 響 壊音 とのやりとり