［基本］OK.　［戦闘］OK.　［スキル］OK.　

私は靴が好きだった。
靴を履くと、その靴の私に変身できた。

ミュールを履けば大人っぽい私になれた。
ランニングシューズを履けば、背を風に押されるように走る私になった。

ラピアクチュール《Le Pire Couture》。最悪の仕立て服。

シンデレラがガラスの靴を仕立ててもらったように、
私には、私は、ラピアクチュールに仕立てられた。

シンデレラはお姫様になったように、
私は怪人になった。

ラピアクチュールを着ているのは、毒島百香だ。
毒島百香は私自身であるけれど、私は毒島百香そのものではない。
そういうことにしておきたかったし、それはあながち間違いじゃない。
細胞は置換され、脳の機能に手を加えられている。
家族を奪われ、日常を奪われ、本来ならするはずのないことをさせられ、
本来なら抱く必要のない悪意を抱かされている。
私が私自身を毒島百香だと思うことは、それまでの彼女を汚してしまう気がする。

けれども、そう願うのは結局私自身で、毒島百香だ。
ラピアクチュールは誰にでも似合うわけじゃない。
ガラスの靴がシンデレラにしか履けないように、
ラピアクチュールは毒島百香にしか纏えない。

毒島百香はあの日――誘拐されたその日。
最悪の中、最高の喜びを知ってしまった。

かわいそうな被害者。悲劇のヒロイン。
古臭いとわかっていながらも、どうしても忘れるに忘れられなかった女の子の憧憬。

知ってしまえば離れられない。
魅力は恐怖のように心に焼き付く。

その貪欲な感情があるからこそ、毒島百香はラピアクチュールが纏える。
そして悲劇のための衣装は、悲劇の舞台がなければいけない。被害者は被害を被らなければいけない。

だからラピアクチュールは世界の敵になった。

もちろん、それ以外にも理由はある。
演じるまでもなく、それは本当の悲劇として。

こんなに辛い思いをしているのに、当たり前に続いていく日常が。
被害者なのに、どうして同情されずに排除されなければいけないのか。
どうしてあの子は守ってもらえるのに、私は守ってもらえなかったのか。
どうして私と大切な家族はこんな目に遭わなければならなかったのだろう。
許せない。
もし立ち直ってしまえば、受け入れてしまえば、私の辛かったことはその程度になってしまう。
毒島百香は死んでしまったのに、なんで私は生きているのだろう。
なんで世界は続いているのだろう、大したことなど何もないみたいに。

けれどアンジニティを選んだのは、世界が憎いからばかりじゃない。

悲劇は続けなければいけなかった。最悪を選び続けなければいけなかった。
ラピアクチュールが最悪を成さなければ、毒島百香は悲劇のまっただ中にいられない。

私にやさしいとか、人の心があるという。確かにそれは間違いじゃない。
人を傷つけるときはずっとくるしいし、相手にかわいそうだと思う。
こんなことをしたくないって心から思う。でもだからこそ私はそうした。
ラピアクチュールはヒロインでありながら悪役で、倒すべき敵であり続けなければいけない。

XYZの面々に抵抗せず、共に戦い続けたのもそうだ。
もし私が復讐なんてものを果してしまえば、それはやっぱりただの復讐劇になってしまう。
死にたくても死なせてくれない、悪事に荷担させられている、そういう物語が必要だった。

そうすることで、同情される。かわいそうだと思ってもらえる。悲劇のヒロインでいられる。

でも。

シンデレラには深夜12時の刻限がある。ラピアクチュールにはハザマ36時の刻限がある。

素敵なパーティはお終い。

世界は終わり、ワールドスワップの発動を待っている。
そうなれば、もはや悲劇は私のものではなくなる。
その舞台において私は加害者で、討つべき悪役でしかあり得ないのだから。

けれども、同時に私はXYZから解放された。
だから私はいよいよ、本当に、死ぬことができる。
それは苦痛から逃れるためというよりは、胸いっぱいの悲しみを、命をかけて果すためだ。
怪人ラピアクチュールが、毒島百香を弔うことができる。
それを果して初めて、この悲劇は完成する。

さあ、幕を引こう。

「さようなら」


　＊


　＊


　＊

……。

世界とか、守りたくないよ、私は。

希望とか、興味ないよ。
そんなものは、嫌いだ。
そんな簡単に覆ったりしない。
この苦しい気持ちに勝る希望なんて、そんなのはない。

あってたまるか、バカ。

……。

待つなんてことがあるなら。

そんなことがあるなら、ただ、ヒロインであることが終わらないでいるからだ。
それ以外の理由はない。

……。


それだけ。

ENo.16 狐嵐華丸 とのやりとり

特に何もしませんでした。