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12年前、姉はいなくなりました。

姉は罪を犯したのです───いいえ。
メルティリードの家が十数年にも渡って隠し続けてきた姉の罪が、
とうとう発覚してしまった、のほうが正確かしら。

それは生まれながらの罪でした。
いつも夢を見ているかのように、穏やかに微笑んでいた姉。
時折、人が変わったように暴れだすことのあった姉。
ワタクシを初めて否定した人間、姉様。姉様。
普段の穏やかな様子が、薬によるものだと知ったのはずっと後のことになりますわ。

『悪魔の落とし子』『誤って生まれてしまった災厄』『アンジニティ』。
朝。すやすやと眠る穏やかな顔。若い神父様に抱えられて教会に連れて行かれる姿。
それが姉様───レイン・メルティリードの最後の姿でした。

……ハマ十字教アヌミシックの教義はご存知かしら。
ええ、人は人であるが故に善なる存在とされ、人の中に悪は生じない、
そういう教えです。でも───そんなことはありませんよね？
人の心の中に悪性は存在する、ワタクシはそれをよく知っています。

ですから……アヌミシックは『罪人』を『人ではないもの』にしてしまいました。
『獣の烙印』によって、罪人は『獣』へと生まれかわり、人であった頃の名前も記憶も失って、
ただ人間種族、ご主人様のために生きる奴隷として生涯を送るのです。

……この街にも、多くの『報恩の会』の獣たちがいます。
多くの獣たちが様々な職場で奉仕者として働いています。
彼らはその全てが元罪人ですが、今は獣として、純粋に人の役に立つことに喜びを見出しています。
規則と首輪に縛られてはいますが、彼等なりの自由を謳歌しているように見えます。

彼らを見ていると、どうしても考えてしまうのです。
─── 一体、どちらが幸福なのでしょうね。

特に何もしませんでした。