［基本］OK.　［戦闘］OK.　

To:████@██████.com
From:yuu_████@█████.com
Date:20██/08/31

Subject:そういえば

一年半ぐらい前に、変な事があったんだよね。
頭の中に直接、映像と声が聞こえたんだ。
……いや、僕の頭は至って正常だよ。他の人も聞こえたって言ってたし。

その人は、「この街は侵略されている」「侵略が成功したら、街の住人が丸ごと侵略者と入れ替わる」って言ってた。
だけど、そこから今まで何も起こってはいない。

みんな何かの夢だったんじゃないかって言ってる。

けれど……僕は、僕らは、そういう超常的な現象を一つ知ってるよね？
実は今は気づけないだけで……今も裏で何か起こってたりするのかも。

もし……もしも仮に、定期的に送り合ってるこのメールが途切れたら、その侵略ってやつが本当に成されたのかもしれない。
多分、そんなことはないだろうけどね。

なんで今更？って自分でも思う。学校は結局あんまりおもしろくもないし、空はいつも通り青くて、嫌になるくらい暑い毎日。何も変わらない毎日。何かあったわけじゃない。
ただ……ふと思い出して、何となく気になったから、君には言っておこうかなって、思ったんだ。

仮に……仮にそれが本当だとして、防衛ってやつが失敗して、僕がどこか違う場所に行ったとしても。きっとまたすぐに戻ってくると思う。
だって、奇跡のひとつやふたつ、起きる世界だってことは痛いほどわかってるからね。
だから……もし返事が返ってこなくても気にしないで。スマホが壊れちゃっただけかもしれないし。


そういえばちゃんと夏休みの宿題は終わらせた？
めんどくさいと思うけど……勉強は出来るならできた方が色々と楽だからね。

そっちも色々大変だとは思うけど、君が大きくなるころにまた会えるように、僕もしっかりとした大人になるから、それまで待っててね。

ユウより

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歪んだ世界、ハザマで、圏外のスマホの送信フォルダを眺めて呟く。

僕らは負けた。すぐには反映されないみたいだけど、それは何の救いにもならないだろう。
ただ、この世界のことを、向こうに居る間は覚えてないってのが幸いだ。
もし覚えていたら……怒りと悲しみでどうにかなってたかもしれない。

結局のところ、僕は僕がどういった存在なのか分かっていない。
イバラシティにずっと住んでた気もするし、そうじゃなかった気もする。
取り戻したあの子も、メールは届いているだけで実は別の世界に住んでるのかもしれない。

どちらにせよ、アンジニティに囚われたらメールも送れやしないだろう。
……そうなる前に、シロナミさんからの連絡しか覚えてないのに、このタイミングで思い出して推測して伝えるなんて、都合が良すぎる気もするけれど。

僕はたまにそういうことがある。それまで思考の片隅にもなかったことが不意に思いついたり、行動に繋がったり。
そういう時、自分の意識は本当に自分自身のものなのか怖くなる。
けどまあ、単純に急に閃いたってやつなんだと思う。TRPGで言うならアイデアロールに成功したみたいな、そんな状況。


アンジニティに居た人達も、もしかしたら似たような経緯を抱いていたのかもしれない。
住んでいた場所を失い、繋がりを失って、世界から忘れられる。
それを取り戻すために、否定された世界から抜け出すために、別の世界を侵略して……。

きっとこれは、そういう物語なんだろう。
世界を守って、奪われて、奪って……。
それが"ワールドスワップ"という名の呪いなんだろう。

好奇心は猫を殺す。
退屈を壊したくてペンを走らせたあの日から……僕は戦い続ける運命に囚われたんだろう。

だったら、戦い続けるしかない。

死ぬわけじゃない。しばらくの間、世界の掃きだめに居るだけ。

戦い続けて……いつか、抜け出してもう一度。
もう一度……彼に会いに行こう。

その為なら……僕は、どんなことだってできる。きっと。

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少年は最後に、赤い果実を齧った。

特に何もしませんでした。