［基本］OK.　［戦闘］OK.　

唐突に切り出した先生の言葉に、驚いて思わず問い返す。














ドヤ顔で胸を張る先生。

どうやら先生に付いて行けば、僕は消えなくてもいいらしい。
でもそれって…










少しの沈黙のあと、意気消沈して申し訳無さそうに答える先生。
想像はついてた。だってそれができるなら、先生はもっと早く提案していたと思うから。





何かを調べているのか、難しい顔をして持っていた本をぱらぱらとめくりながら先生が話す。
聞きなれない単語は、僕を連れて行く世界の名前だろうか…








調べものは終わったようで、先生が僕を見つめる。





僕はもう、イバラシティに…家族のもとに戻ることはできない。



さっき、ワールドスワップの結果が聞こえてきた。
響く声は…アンジニティの勝利を、宣言していた。



僕がハザマで戦い続ける意味はもう、ない。











やりきれない思いが込み上げる。結局、僕は家族を、イバラシティの人達を守ることができなかった。
改めて無力さを思い知り、ぼろぼろと涙が溢れる。









　おとうさんは、普段頼り無く見えても、やるときはやる父だ。


　おかあさんは、いつも朗らかだけれど、芯は強い母だ。


　あすかちゃんは、ちょっと気が弱いけれど、見かけと違ってしっかりしてる子だ。



あの3人なら、苦難があっても乗り越えられる。きっと。



…僕が、傍に居られないのが残念だけれど。






先生の姿がどんどん薄く、透けていく。存在が稀薄になってゆくのを感じる。


先生が僕に手を差し伸べる。


僕は、その透き通りそうな手を取る。






手を取った先生は頷いて、呪文らしきものを唱えてゆく。けれど…




聞き逃せない一言に、僕は慌てて口を挟んだ。




言ってることは判る。でも先生がそれを言うのか？ と、何故かツッコみたくなるんだけど…












先生の説明に、ほっと胸を撫で下ろす。

他の世界に移れるからと言って、家族のことを忘れてしまっては意味がない。
それじゃ、消えてしまうのとほとんど同じだもの。










　僕が居たことを、忘れてしまう…？















先生を掴んでいた手が、すっと離れた。




手を離した僕を、驚いたように見る先生。
ぐっと手を伸ばし、再度 僕の手を掴もうとする。




　けれど…




　僕は…












伸ばした先生の手が、止まった。


































































わずかの間 押し黙ったあとの、短いやりとり。





















　僕は、イバラシティの羅須 郷…　ううん、『イバラシティのラッシュ号』であることを望んだ。




　共に暮らした家族との日々。楽しいこと、嬉しいこと注射とかお薬とか時々は嫌なこともあったけれどの記憶。




　それは、僕だけの記憶じゃない。




　家族と…相手と共有してこその『僕たちの』記憶。僕たちの『絆』。




　僕だけしか覚えていないのなら、それに何の意味があるんだろう？




　消えたくないからといって、家族が僕を忘れることを受け入れてしまえば…








　それは、僕たちの、家族の絆を否定することにほかならない。









　僕は、家族のみんなが好きだ。




　僕は、家族と暮らした日々が好きだ。




　僕は、家族みんなに、僕が居たことを覚えていて欲しい。













　それがいちばん、大切なこと。












だから僕は、『イバラシティのラッシュ号であった』ことを望んだ。








































先生の姿は、もう上半身が残るだけとなった。








先生はにこりと微笑むと…　　　すぅっと虚空に消えた。








































僕にできることは、もう、なにもない。
せめて、家族が…イバラシティの人達がアンジニティでも平和に暮らせるよう、祈るだけ。



































ふと目に入った時計台は、静かに秒針を刻む。
































静まり返った石畳の時計台。
僕は、その根元に座り込む。
































辺りを見回すも、人影どころか動くものすらない。
僕は、ここで…
























































叶うなら。








































































　僕は、夢の続きを。

特に何もしませんでした。