［基本］OK.　［戦闘］OK.　

突然現れた彼女の内側に押し込められてから、どれぐらい時間がたったのだろう。まるでここに来る前……洞窟の中でずっと眠っていたときのようだ。
あのときは誰にも会いたくないと思ったから閉じこもったのだ。ふとした瞬間に、私が触れてしまったせいで燃えてなくなってしまったよく知る子、知らない子、多くの人や物のことをどうしても頭をよぎる。それを思い返してしまうととても外に出る気にはなれなかった。
だが、今は少しでも早く外に出たかった。燃やしてしまった色々な物を忘れたわけではないし、相変わらず何を食べても味を感じることはできないし……もしかしたら私はもう人ではないかもしれないけれないけれど、彼女に会って伝えなければいけないと感じたから。
でも彼女が私を離してくれない限りそれは叶わない。
ぼんやりと暗闇を漂うと、どこからともなくふわりと優しい光がうまれ、やがて人を模る。それはつい最近までよく話していた少女。彼女は困ったようにくすりと笑った。





いつものように笑ってくれた。気が付いたらずっと近くにいて、彼女を見ているのが日常で、そうやって笑ってくれているのが支えだった。
けれど、私は彼女の名前を呼んだことがなかったのかしら？と考えこんでしまった。それは今の本題ではない。




後先考えていない目の前の彼女の発言に思わずため息がでる。
それでも、そうやって暗い部分を何も知らない笑顔で笑っていてくれるだけで私は救われる。
少なくとも、私は目の前の少女を燃やしていないのだから関われてはいるのだ。

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少女は歌うように独り言を発しながら、空を見上げた。


彼女の予想では、Ascheとなった実々伽は世界に絶望しているはずだった。実際そうだったのだろう。絶望した世界で一人で一人で生きながらえている様は見るに堪えないのは想像に難くない。
だが、想像を裏切るように、自分が利用した小さな女の子が何も感じない彼女を少しづつ解きほぐした。彼女だけが要因ではなく、他者との関わりやもう一つの世界も要因と思うが、存在が大きかったことは確かだ。
これからどうするか、と思案し始めていた時だった。自分の内側から呼ぶ声が聞こえた。

「理航！！！」

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私が叫ぶと、少しだるそうな声が降り注ぐ。




魂だけの存在の彼女には意味のない名前かもしれないが、会話をする上では不便になるので思い出してよかったとは思う。
例えばの話だけれど、私が「理航」と認識している彼女は魂だけの存在でいるうちに形を変えてしまったのだとしたら、その名前に意味などないのかもしれない。私も同じだ。
聞きたいことは無限心太並みにあるのだが、用件をつまみ上げて話す。



名前の必要性。先ほど思案した内容だ。確かに私は「近衛 実々伽」だった。いつからか、灰、と呼ばれ、元の名前を呼ぶ人は居なくなった。私もAscheのほうが自分であるという自覚がある。
ずっと見続けてきたイバラシティでの自分「近衛 実々伽」は間違いなく私ではない。変形してしまった魂、肉体、人格はもうあの形に戻ることはないのだろう。
もう私はあの子ではない。だが、自分の認識が曖昧だ。もう戻ることができないというのを知りたくもなかったから、自分をどういう存在が認識することをしてこなかった。だから。



……今更ではあるが、私は彼女にここまで好意を寄せられる心当たりがまるでなかった。
実々伽は彼女に何をしたのが気になるが、思い出すことはきっとできないだろう。少し歯がゆさを感じる。





はあ、とため息が漏れる。分かってはいたのだけれど。
彼女は鈴を転がしたような声色で続けた。


そういうことか。
彼女の理解では人でなくなった私は死ぬことができない。そして人と触れ合うこともできない。
人が好きだった私を案じて、「私」に終わりをくれようとしているのだ。それは最高のプレゼントかもしれない。



そうね。予想外の同意だった。
彼女は相変わらず歌うように笑いながら話す。


そんなに楽しそうにしていたかしら？
いつもと然程変わらない会話をしていたはずだけれど。








何か手がかりとかないの！？と思っても私の思いは彼女には伝わらなかったようで、私は上に噴き上げる風にのって彼女のもとから離れていった。

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目を開けるといつもの廃墟が立ち並ぶ赤い世界だった。
そして近くに燈縁が倒れている。


彼女に触れようとしてためらう。
"触れてはいけない。"
触れる前に彼女はうっすらと目を開く。


つい胸をなでおろしてしまった。






彼女はきょとん、とたたずむ


じんわりと目じりに涙を浮かべる。
私はあわててフォローに入った。



彼女は困ったようにくすくす笑いながら目頭の涙をぬぐった。








私はなんでこんなに彼女に弱くなったのだろう。考えてみれば最初から弱かった気もする。
でも、振り回されているのはそんなに悪い気はしなかった。